フランス語コースの目的とカリキュラム(初級)

フランス語はラテン語・ギリシャ語とともに英語の上層語彙を形成しているため、英語学習の一部には既にフランス語学習が含まれていると言うことができます。しかし、通常の英語学習においてその重層性を自覚することは少なく、その視点を獲得するためにはフランス語およびその背景となる文化を独立して理解する必要があります。フランス語クラスは、フランス語を英語と並ぶ現代の国際社会の基礎を形成するものと位置づけ、画一的になりがちな英語文化を相対化する手段として捉えています。その上で、文系クラスにおいてはフランス語に基づく学術・文化に直接アクセスするための基本を修得することを目的とし、理系クラスにおいては、より実用的なフランス語学習を通して得られる複言語・複文化主義的思考を養うことを目的としています。

フランス語初級カリキュラム

 京都大学の初級フランス語教育は「2年コース」と「1年コース」という2つのコースに分かれており、それぞれ別の教科書が用いられています。さらに、希望者には「8Hコース」という特別コースも提供しています。どのコースでも、文法クラスは日本人教師が、演習クラスはネイティブ教師が担当しており、実践的なコース・デザインになっています。

 みなさんの多くにとって、大学の初修外国語は英語以外の外国語を学ぶ初めての機会となるかと思います。まだ外国語をいかに勉強するかということをあまり客観視することのなかったころに学びはじめた英語と異なり、「外国語を学ぶとは自分にとってはどのようなことか」を考えながら語学の学習を開始できる貴重な機会です。

 2年コースでは、1年目の初級の教科書からフランス語の特性についてのくわしい説明やコラムが掲載され、学習者にフランス語の文法構造の全体図を把握してもらうための工夫がなされています。また2年目には、各々がフランス語の学びをどのように深めたいかに応じてクラスを選択できるよう、多彩な中級クラスが開講されています。

 1年コースでは、インターネット上の教材を用いた自律学習を中心に据えることで、それぞれの学習者に対して、自分が学習の主となることを意識するようにうながしています。また、学習ポートフォリオを書いてもらうことで、学習の過程を客観化できるような工夫もなされています。

2年コース (法・経・文・教育・総人・理)

2年間の学習で、以下のことを目ざします。

  1. 自分の意見をフランス語で言える会話能力
  2. 辞書さえあればフランス語の文献を直接読みこなせるようになるための基礎力
  3. フランス文化についての基本的な知識
  4. フランス語圏の文化の多様性の理解と言語の多様性についての広い視点の獲得

 このコースの特徴は、「1年間で辞書を使えば近代以降のフランス語を読めるようになる」ことです。もちろん、1年では身につく語彙などは限られていますが、文法事項の全体的な見取り図を1年で見通すことで、「すべてを覚えてはいないけれど、分からないことを知るために何を見ればよいのかはわかる」という状態を目ざします。

 また、初級文法の教科書には、フランスでよく知られている作家・思想家・科学者の文章が例文として挙げられています。フランス語で書かれてきたこと、考えられてきたことがどのようなものか、フランス語が可能にする芸術や思考がどのようなものか、それぞれの教員の専門分野に応じて文化的背景も話しながら授業をおこなっています。理学部は、中級は必修ではありませんが、体系的な学習を好む人が多いということでこちらの教科書で学んでもらっています。

 さらに文系学部の学生と希望者は、この基礎をもとに2年目に中級の授業を受けることで、将来フランス語を使って研究したり、フランス語圏へ留学したりするための準備ができます。

1年コース (農・工・医・薬)

 1年間の学習で、以下のことを目ざします。

  1. 基本的な日常会話ができるフランス語の能力
  2. フランス語圏の文化の多様性の理解と言語の多様性についての広い視点の獲得

 自律学習によってフランス語初級文法を身につけてもらう授業です。教員は、コーチのようにみなさんの学習を見守り、必要なアドバイスをします。教材には、フランス語と他言語の共通点や相違点について考えるコーナーも多く設けられており、日本語もふくめて、さまざまな言語を相対化するよう促すものになっています。

 → 1年コースの教材はこちら

 さらに希望者には、次のような特別クラスも提供しています。

8Hコース 

 週8時間(4コマ)しっかりフランス語を学ぶコースです。上に挙げたふたつのコースより文法の進度はむしろゆっくりではありますが、聞き取り、作文、発話など、音声面や発信する側面の練習を重視したコースであり、フランスで作られた教科書を使って授業を進めていきます(文法の説明は日本語でも行うので安心してください)。

 全世界のフランス語学習者を対象とした教科書を使い、フランス語とフランス文化についても集中的に学習する経験は、フランス語圏での生活力はもちろんのこと、その後の勉強・研究においても大きな強みになります。日本人とネイティヴの教員がそれぞれ2コマずつ担当します。またさらにフランス語の能力を伸ばすために、2年目に週3コマの6Hコースが設けられています。

 →8Hコースの教材はこちら

フランス語担当教員紹介

西山 教行

 フランス語を始めたきっかけはフランス文学へのあこがれでしたが,2回目の留学以降にフランス語教育学へと専門を変えました。英語以外の外国語について,言語教育や言語政策を専門としている教員は日本において非常に稀です。研究の成果が教材製作やコース設計などに反映されていることを期待しています。

 フランス語を学ぶことが,日本人とは異なるものの見方を学ぶことにつながったり,日本語とフランス語,日本文化とフランス文化の境界を行き来することにつながればよいと思っています。サイトがあるので,こちらもどうぞ。


守田 貴弘

 中学生のときにノーベル文学賞をとった大江健三郎に触れ、高校生のときに倫理の先生に貸してもらったサルトルの『嘔吐』を読んでしまったがために実存主義者になり、大学に入ったら必ずフランス語を学ぼうと心に決めた…というのは嘘のような本当の話です。その後の研究生活では文学や哲学とは違う言語学を専門とはしていますが、日本語とフランス語も含めた言語類型論を研究する中で、フランス語も含めて、いろいろな言語を学ぶことには「当然だと思われていたものが、実はそうではないかもしれない」ということに気づくヒントが隠されているのかもしれないと思います。「外国語って、英語ができればそれでいいんでしょ」と思っている人にこそ、視野を広げるためにフランス語も学んで欲しいですし、そもそも、ことばで思っていることが伝わるというのは奇跡のような体験なのだと、外国語を学習するなかで感じてもらいたいなと思っています。


中筋 朋

 『千夜一夜物語』が好きでアラビア語に憧れ、しかし当時は文字を覚えるための教材だけで5000円もしていました。中学生のお小遣いでは手が届かず、千夜一夜物語の雰囲気が残っていると言われているモロッコでフランス語もよく通じるということを知り、ラジオ講座でフランス語と出会いました。けれども結局のところ、ラジオでしっかり勉強したのはむしろイタリア語で、その後大学でも、第二外国語ではドイツ語を選択……フランス語をきちんと学びはじめたのは、なんとフランス文学の研究室に入ったあとでした。

 英語でいうところの be 動詞の活用も知らないまま、ルソーやプルースト、バルトやジュネットを読んだのはよい思い出です。1年ほど文法を学んだあと大学院に進学しましたが、まずはフランス語をきちんと学ぶために留学。語学留学のはずが、当時は演劇学を専門に学べる大学がまだ少なかったため、リヨン第二大学の演劇学科に留学。学位をとる予定はありませんでしたが、留学先のクラスメートたちにつよく薦められて、学士号をとりました。選択科目では、学科がいっぱいいっぱいだったので、コンテンポラリーダンスを選択して、鏡つきのスタジオで授業を受けたり……なかなかの珍道中でした。

 授業では、フランス語とともに、留学中の生活感に満ちた話もよくお話しています。日本語とフランス語は、そしておそらくどんな外国語も、単純に翻訳して交換可能なものではありません。むしろわたしも、この場合日本語ならこう言うけれど、フランス語なら違うことを言うということがよくあります。授業では、「フランス語っぽさ」を知ってもらうために、さまざまな場面でよく言われるフランス語の表現も紹介しています。いろんな外国語を学ぶことで、自分の思考モードもふやしてみる……大学での勉強・研究の準備として、楽しくフランス語を学びましょう。


上田泰史

 記憶にあるかぎり最初にフランス語に触れたのは、子どもの頃に母が聴いていたNHKラジオ講座や、音楽好きの父が口ずさんでいた童謡「Au clair de la lune」だったように思います。もちろん、意味は分からず、音だけを聴いていました。 その後、フランス語学習へとつながる道を拓いてくれたのは、やはり「音」でした。 高校でサクソフォンを始めました。19世紀半ばにフランスで完成されたこの楽器は、演奏時に口腔をさまざまに調整することでなめらかに音をつなげたり、同じ指のまま音程を変化させることができます。また、「r」の発音のように口蓋垂を震わせるテクニックもあります。この口腔調節の技術は、日本語にはないフランス語の母音と子音を発音する際にとても役立ちました。

 さて、学部時代には初級から上級まで一通りフランス語を修めましたが、3年間は研究テーマへの迷いからドイツ語も履修しました。結局、本腰を入れたのは大学院に入って留学準備を始めてからでした。留学先のパリでは最初の一年間、語学の訓練を受けました。石の上にも三年と言いますが、三年目には大学の講義もかなり理解できるようになり、フランス語で音楽についての論文も書きました。

 フランス語を勉強してよかったと思うのは、フランス語による論理的な思考様式を学んだことで、日本語で論理的な文章を書く力が鍛えられたことです。言語と思考様式は不可分だということです。その一方で、日本語独自の詩情に感動する機会も増えました。

 授業では、「音」を大切にしています。黙読するだけではなく、思考を音にすることがフランス語学習の醍醐味だと思っています。頭と身体でその魅力を一緒に味わいましょう。


ジャン=フランソワ・グラジアニ

  みなさん、こんにちは。ジャン=フランソワ・グラジアニです。南フランスのマルセイユ出身ですが、2003年から日本で暮らしています。妻は日本人で、陽子といいます。

 これまでに、日本のいくつかの大学で教えてきました。北海道大学、名古屋大学、大阪大学、そして埼玉の文教大学です。2009年から2014年までは、京都大学でも教鞭をとっておりまして、今回戻ってくることになって非常にうれしく思っております。私は京都が大好きで、素晴らしい町だと思っています。また、京都大学のような著名な大学で仕事ができることも誇らしく感じております。

 さらに、大木充先生とジャニック・マーニュ先生とともに、NHKラジオ講座のフランス語入門編を担当したこともあります。これは非常に興味深い体験でした。

 教えているのはフランス語ですが、研究領域は言語政治学と日本におけるフランス語教育史です。

 余暇には、お笑いを見たり、読書をしたり、テーブルトークRPGをしたり、カラオケに行ったりしています。

 現在は困難な状況が続いていますが、みなさんがやる気を失わずにフランス語の学習をはじめる準備万端であるよう願っています。忘れないでください……外国語を学ぶことは、毎日旅をすることです!

 それでは、みなさんにお会いできるのを楽しみにしています。

グラジアニ先生からはビデオもいただいています。フランス語を聞きとってみましょう!

おすすめ教材

文法解説書

 教科書と辞書のほかに、文法についての詳しい解説書を持っていると、疑問が出てきたときに適宜参照して学習を深められて便利です。解説書は、自分が見やすいものを選んでもらうのが一番ですが、迷っている人には以下のものをお勧めします。

                東郷雄二『フランス文法総まとめ』(白水社、2019年)。

                六鹿豊『これならわかるフランス語文法:入門から上級まで』(NHK出版、2016年)。

NHKラジオ講座

 NHKのラジオ講座でも、フランス語を学ぶことができます。初級講座は、半年のコースなので、ちょうど大学の授業がはじまる4月と10月にあたらしい講座が開始されます。「ラジオ講座」ですが、インターネット上で聞くこともできますし、ネット上やスマートフォン・アプリの「らじるらじる」であれば先週のものまで聞くことができるようになっているので、授業開始とともに視聴をはじめることができます。以下のサイトで聞くことができます。

                https://www2.nhk.or.jp/gogaku/french/

 聴くだけなら無料なので、聞いてみて自分に合いそうなら、テクストを購入してみるとよいでしょう。発音と綴り字が結びつく最初の段階では、テクストが必要ですが、ある程度慣れてくるとテクストなしでも学習することができます。

 1回15分と短いので、学習の習慣づけにもぴったりです。初級講座は週3回なので、2回ずつ聞いて、出てきたフレーズをしっかり覚えていくということをつづけてみてください。半年後には、蓄積の力を実感できるでしょう。

 フランス版「こどもニュース」 https://www.1jour1actu.com/

 子どもの疑問に答える形で書かれたフランス語のニュースです。時事ニュースだけでなく、「科学」「文化」「歴史」のコーナーもあり、コーナーごとに閲覧することもできます。

 さらによいのは、どの記事も簡単なアニメーション動画にもなっていることです。これにより、記事をしっかり読むまえでもなんとなく意味をイメージすることができるだけでなく、すべての記事の音声を聞くことができます。気に入った記事は、辞書を使ってしっかり読んだあと、動画をつかってシャドーイングをしてマスターすると、スピーキング力もリーディング力も大きく向上するでしょう。